「ヴァンパイア・ハンター」 〜奇禍〜 |
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クラピカの一族・クルタ族は、かつて戦と自然災害で亡国と なった王家の末裔である。 国を失い、ルクソ地方の奥地に逃れた先祖はそこを新たな 故郷として、細々と血を繋ぎ、平穏に歴史を重ねていた。 ところが、突如として終焉の日が訪れる。 ある夜、ヴァンパイアを含む13匹の魔物に襲撃されたのだ。 クルタの民は戦士のみならず女や老人も剣を取って戦い、 必死の反撃を試みたものの人外の力には叶わず、次々と 命を落としてゆく。 敗北を悟った一族の長は、せめて幼い者だけでも守らんと 子供たちに避難を命じた。 村のはずれには歴代クルタの神事が執り行われた小さな 祈祷所があり、その社は長年 真摯な祈りを捧げ続けていた 為か、魔物が立ち入れぬ結界にも等しい聖域だったのだ。 当時12歳だったクラピカは、長の娘として、また剣技を学ぶ 身として、最後まで大人たちと共に戦う事を望んだが、父親に 『次代を生み育てることのできる女は一人でも多く生き延び ねばならない』と説得され、他の子供たちと共に社へ向かう。 しかし途中で魔物に襲われ、交戦しつつ逃走したが、大半の 子供が深手を負い、次第に人数が減り、祈祷所へ到着できた のは、わずか数名だった。 魔物は社の門や外壁を破壊したが、内部の聖域へは入れず、 クラピカは息を潜めて夜明けを待つ。 太陽さえ昇れば魔物たちは去ってゆくのだから。 この時、社の中には複数の子供がいたが、呼吸をしているのが 自分一人だという事に、クラピカはまだ気付いていなかった。 ふいに魔物の攻撃音が止まり、クラピカはハッと顔を上げる。 壊された扉の隙間からは、村の家々が焼ける様子が見えた。 (─── ……!!) 火影が映ったのか、交戦中に浴びた返り血なのか、緋色に 染まったクラピカの視界に、空間を切り取ったような黒い影が 飛び込む。 それは、初めて目にするヴァンパイアの姿。 そして生涯、忘れられないであろう仇敵の姿。 地獄絵図の惨劇を指揮したとは思えぬ優雅なたたずまいで ヴァンパイア─── 伯爵は聖域の中を見つめ、硬直したままの クラピカと視線が合う。 その時クラピカは、生まれて初めて『殺意』という感情を抱いた。 恐怖にも勝る怒りがあるのだと、身をもって知った。 しかし伯爵は、しばしクラピカに注視していたかと思えば、実に 嬉しそうに笑って言ったのである。 「お前が気に入った。オレの花嫁にする」 ─── と。 クラピカは最初、言われた意味が理解できず、緊張のあまり 凍り付いていた。 しかし不意に轟いた咆哮で我に返る。 それは魔物たちの勝鬨の雄叫びで、クラピカは一族の滅亡を 直感した。 求婚を宣言したものの、聖域にはヴァンパイアさえも入る事が できず、クラピカが自ら出て来ない限りは手も触れられない。 強引に引きずり出す事は不可能で、また夜明け間近でもあり、 伯爵は即時の拉致を諦め、狂宴を終えた魔物たちと共に 立ち去ってゆく。 「お前が16の歳になる頃、迎えに来よう」 そう言い残して背を向けた伯爵に、クラピカは一太刀だけでも 浴びせたかったが、叶わなかった。 膝の上で冷たくなっていた弟を、振り払って立ち上がる事が できなかったから。 恐怖の一夜の後は、無限の悲しみ。 結局、生存者はクラピカだけだった。 涙も枯れ果てた彼女は、同胞たちの無残な遺骸を一人で 埋葬し、墓標を建て、焼け残った衣類や道具を拾い集めて 旅に出た。 弔いを終えるまでは、魔物への警戒もあって聖域の社で 寝起きをしたが、焦土と化した地で少女が単身生きてゆく のは不可能だし、世を儚んだり修道院へ逃げ込んだりする には、あまりにも憎悪と怒りが深すぎる。 クラピカの胸には復讐の炎が燃えたっていた。 ─── ヴァンパイアと魔物たちを絶対に許さない。必ず報いを 受けさせてやる。 その為には、もっともっと剣技を磨き、体を鍛え、男よりも、 戦士よりも、魔物よりも強くならなければ。 幸いというか、旅の途中で師を得る事ができて、クラピカは 剣術の他にも戦闘の技を習得した。 やがて腕に自信もつき、師の元を離れたクラピカは伯爵の 居所を探し始める。 憎い仇に『見逃されて生きている』などというのは、彼女の 誇りが許せなかったのだ。 対して伯爵側も、花嫁候補の動向に無関心ではない。 太陽光の苦手な魔物たちは常に監視する事はできないが、 夜毎に捜索を続けていた。 クラピカが16歳になる夜、伯爵が迎えに行けるように。 そんな中、最初にクラピカを発見したのはワーウルフだった。 短慮で好戦的な彼はクラピカの挑発にあっさりと乗り、主に 止められていた彼女との戦いを始めてしまう。そして激闘の 果てに、思わぬ敗北を喫した。 だがクラピカの方も負傷し、安全な休息地を求めてさまよう中、 ゼビル村の灯りを見つけたのだ。 それでも村内に入るか否か迷い、近くの林道で逡巡する内、 一人の男と出会う。 ─── 彼が、後にクラピカの人生を変える運命の相手だとは、 まだ知る由も無かった。 そして16歳の誕生日まで、あと数ヶ月となった今、クラピカは 仇敵である伯爵と再会したのである。 |
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