「ヴァンパイア・ハンター」 〜縁由〜 |
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初対面の印象は決して良くは無かった二人だが、共に暮らせば 相手の内面も見えて来る。 クラピカが高慢なだけの世間知らずではない事はすぐにわかった。 態度や立ち居振る舞いに相応の高い教養と知性を持っており、 高貴な出身であろう事をレオリオは確信する。 それがなぜ、従者も付けず たった一人で旅をしているのかは まるで見当がつかないが。 レオリオにとって、実に興味深い異邦人だった。 レオリオは医者という職業の割には口が悪く、時折 下品な冗談を 飛ばしてクラピカをからかったが、根底には確かに優しさが在った。 何より、住民の誰もが彼を慕っている。それは彼が村に唯一の 医者だからという理由ではなく、純粋に人徳だろう。 ちょっと姿が見えないと思えば、庭先で近所の子供たちと遊んで いたりする。 そんな様子を目にするたび、クラピカの心は暖かくなった。 「オレは孤児で、ガキの頃この村に流れついたところを先代の 神父さんに拾われたんだよ」 ある時、他愛の無い会話がどう流れたのか、レオリオの過去話が 始まってしまった。 「そん時、前後して拾われたのがコイツ。兄弟みたいに育った 幼なじみだったんだ。……10年前、病気で死んじまったけどな」 そう言ってレオリオは写真の少年を指差す。一見、平然と話しては いたが、彼の瞳はいつかと同様、沈んだ色に変わっていた。 聞きながら、クラピカは写真の少年に関する自分の推測がほぼ 当たっていた事を再確認する。 「治らねえ病気じゃなかったんだけど、その時この村には医者が いなくてな。山向こうの町のヤブ医者は貧乏村に来るのを渋って、 結局、手遅れになっちまった」 「……だから、お前は医者になったのか?」 「まあな。先代の神父は教会の跡を継いで欲しかったらしいけど、 オレは神を信じてないから、神父にはなれねぇさ」 途端にクラピカは目を丸くする。この地域、いや国自体、同一の 信仰が浸透しているというのに。 「…信じていないのか?教会育ちなのに」 「だってよ、神はオレのダチを助けてくれなかったんだぜ」 「…………」 まるで子供のような理由に、クラピカは再び目を丸くする。 しかし、それはとても純粋かつストレートな主張だ。 「あきれた男だな。それでよく神父代行できたものだ」 「だからオレは医者なんだって。本当は、この村だけじゃなく、もっと 多くの町や村で貧しい子供を無償で治してやるのが夢なんだぜ。 ─── そう言うお前は敬虔な信者なのか?」 「そうとも言えるし、違うとも言える」 「……? 何だ?そりゃ」 常に物をはっきり言うクラピカらしからぬ言い方に、レオリオは 不思議そうに問い返す。 クラピカはしばし迷った後、返答した。 「─── 私も、お前と同じ理由で神への不信を抱いたのだよ。 だが、我が同胞が神の御許で安らかなる眠りを得ん事を願って、 日々祈りを捧げているからな」 「!」 レオリオは驚きに目を見開く。 一瞬、沈黙が流れたが、クラピカはレオリオが問うより先に言葉を 続ける。 「我が同胞─── クルタ族は4年前、私一人を残して滅亡したの だよ」 「…………」 人が死んだり殺されたりは珍しくない世の中とはいえ、一族滅亡 とは尋常ではない。 しばし言葉を失ったレオリオが思い当たったのは一つだけ。 「……魔物か?」 「そうだ」 「…………」 「言っておくが、同情は無用だぞ」 クラピカの気丈な瞳には、悲哀も絶望も乗り越えた強さがある。 レオリオは理解した。 アゴンを救えなかった夜、ともすれば辛辣なクラピカの言葉に 安っぽい慰めよりも救いを感じたのは、同じ痛みを経験していた からなのだと。 「同情なんかしねぇよ。オレだって、こう見えても苦労人なんだ からな」 あえて軽妙な口調で、大げさに胸を張りながらレオリオは言う。 重くなりかけた空気が払拭されて、クラピカの表情も緩んだ。 「苦労人の割には、軽薄だがな」 「明るく健気に生きてんだよ♪」 「自分で言うな」 視線をかわすと、自然に笑みがこぼれる。 二人は次第に心を開き、信頼の度を深めていった。 日が経つにつれ、クラピカの怪我も治ってゆく。 経過は良好で、もう日常生活には何の問題も無い。 その少し前から、クラピカは診療所の雑事を手伝い始めていた。 診察室の掃除、包帯やタオルの洗濯、庭木への水撒き、等々。 レオリオはそんな事しなくて良いと言ったけれど、クラピカは タダで厄介になるのはイヤだし、リハビリも兼ねているからと 押しきっている。 初めの内こそ当惑していたレオリオだが、やがてクラピカの 好意をありがたく受ける事にした。 |
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