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「やっぱ、愛の力には勝てないだわさ」
やれやれと肩をすくめ、ビスケは苦笑する。
どこがどう違っていたのか、なぜ気づいたのか、理由は
不明ながら、即座に見抜いたレオリオを連れ、ビスケは
部屋に戻って来ていた。
事情を説明され、事態をまのあたりにすると、さすがに
レオリオも驚いて言葉も無い。
「で、あんた一体何やってたの?」
そしてクラピカはと言えば、一人ファッションショーの現場を
目撃され、恥ずかしさで言葉が無い。
だが、そこはダテに還暦前ではなく、ビスケは経緯を察して
ニッコリと笑う。
「いいのよォ。女の子なんだから気持ちわかるわさ。気にせず
じゃんじゃん着なさいって♪」
明るく慰めながらウインクまで飛ばしてくれるが、その姿が
クラピカである以上、傍で見ていたレオリオは、違和感に
押しつぶされそうになってしまう。
「それにしても」
ビスケは音も立てずに近寄り、クラピカの耳元でコソリと
告げる。
「アンタ良い趣味してるよ。彼氏、けっこう有望だわさ」
横目でレオリオをチラリと見て、ビスケは笑う。
褒められるのは嬉しいが、クラピカはどこか腑に落ちない。
「とにかく、あたしはこれで退散するから。久々の再会を
堪能するんだね」
そう言って、ビスケは再び立ち上がる。
「どこへ行くのだ」
「ゴンたちの部屋にでも邪魔するわ。外には出ないから
ご心配なく。じゃ、後はよろしくねーv」
「お…おい、待てよクラピカ」
「クラピカは私だ!」
思わず追いかけようとしたレオリオに、クラピカは叫んだ。
彼が他の女を追う姿など、不快なんてものじゃない。
たとえ相手が自分(の姿)であっても。
室内に取り残されたレオリオとクラピカは、無言のまま。
見慣れない幼い少女の姿に、レオリオは困惑していた。
これでは、さすがに食指も動かない。
「…クラピカ…?」
「……ああ」
「……なんで、また……」
「聞くな。私にもわからないのだ」
他人の身体では、再会を堪能などできるわけがなかった。
第一、実年齢はともかく、下手をすれば淫行罪である。
――― せっかく、久しぶりに会えたのに。
チャラチャラしたドレスをとっかえひっかえ着替えて遊んで
いる場合では無かったのだ。
己が情けなく、悲しくなって、クラピカはうつむいた。
落とした視界に、立ち上がるレオリオの足が映る。
「…レ、レオリオ?」
「何もしねえよ」
カウチソファに並んで座り、レオリオは苦笑しながら告げた。
そして、よもやまさかと緊張するクラピカの頭に、フワリと
掌を乗せる。
「……こんなモンかな」
レオリオも、いくら中身がクラピカとはいえ、別人で しかも
子供に手など出せないのだろう。
すっかり落ち込んでいるクラピカを、宥めるようによしよしと
撫ぜる。
「……レオリオ…」
「大丈夫だよ。どうなったって、オレはお前を見捨てねえ
からさ」
「…………」
優しい言葉に、涙が出そうになってしまう。
まるで容姿そのままの幼い少女になってしまったかのように、
クラピカはレオリオにもたれかかった。
その素直な仕草に、レオリオは内心 複雑だったが、せめて
自分が冷静でいなくてはと腹を括る。
ふたりきりで一緒にいられるのだから、贅沢を言っては
いけないのだ。
今夜には、ネテロ会長を初めとする念能力のエキスパートが
集結するし、解決策も見つかるかも知れない。
「…てゆーか、なんとかしてもらわなきゃなあ」
「まったくだ…」
ある意味では微笑ましい光景をかもし出しながら、二人は
またも溜息をついた。
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