「ロマンシング・アイランド」    
〜Do You Feel Like I Feel?〜    
  


─── 見えたぞ、ゼビル島だ」
クルーザーの上から誰かの声が響く。南国の青い空と波の彼方に
現れた小さな島影、それが無人島・ゼビル島だった。

季節は夏。ハンター大学では毎年、各部間の親睦・交流を深める
べく
有志が募りあって合同合宿を決行している。
しかし今回、幹事役のハンゾーが企画・立案した『歴史×探検×
原始に帰ろう無人島ツアー』は昨今の若者には不評で、総勢12名
ほどの参加となってしまったのだが。
その中に、医学部在籍のレオリオと 人文歴史学部在籍のクラピカも
いる。
2人は少しずつ近づくゼビル島を臨みながら、甲板で顔を合わせた。
「まさかお前が参加するとは思わなかったぜ」
「それは私の台詞だ」
初対面で大ゲンカという出会い方をした仲である。以来、寄ると
さわるとケンカになるが、なぜか一緒にいる事が多い。
「ゼビル島は古代スミ族の居住地域だと聞くからな。私は純粋に
文化的興味で参加したのだよ。お前は大方、女子学生の水着姿が
目当てなのだろう」
クラピカは船酔いしないのが不思議なくらいの分厚い、難しそうな
本に目を落としながらツンとした口調で言い放つ。
図星ではないにせよ、否定もできず、レオリオは反論する。
「ば、バカ言えっ。オレは医者代わりに同行を頼まれたんだ!
万一の時、医学知識のある奴がいないと困るからってな!」
「ムキになると更に言い訳がましいぞ、レオリオ」
「〜〜〜……かっわいくねぇな〜〜!!」
初対面の時からこの調子の2人は、入学以来半年もケンカ友達を
継続している。
並んで立ったまま、互いにプイとそっぽを向いた。
─── 次の瞬間。
─── !?」
鈍い摩擦音と共に、船体に衝撃が走る。岩礁の一部にクルーザーが
接触したらしい。
はずみで体勢を崩したクラピカの上体が手すりを
越えた。

「危ねぇっ!」
レオリオは危うく抱きとめる。その時、クラピカが手にしていた本の
隙間から小さな物体が滑り出た。
「あ……!!」
それは紅い宝石を嵌めこんだ金細工の火蜥蜴。海面で反射する
太陽光を受け、キラキラと煌きながら落ちてゆく。そして、そのまま
波間に消えた。
クラピカはしばし呆然と波紋を見つめていたが、やがてレオリオを
振り返り、キッと睨みつける。
「何ということをしてくれたのだ!あれは我が祖父の大切な形見、
航海の御守りなのだぞ!?」
いきなり咎められ、さすがにレオリオもムッとする。
「何だよ、船が揺れたのはオレのせいじゃねぇぜ!? 第一、お前が
落ちるのを助けてやったのに、それはねぇだろ!」
「お前に助けられずとも、私は落ちたりなどしなかったのだよ!」
「今、落ちかけてたじゃねーかっ!!」
「現実に落ちていないではないか!」
「それはオレが助けたからだろ!?」
「お前は恩を着せる為に人助けをするのか!? 最低だな!」
「勝手な結論出すんじゃねー!!」

「おい、お2人さん。取り込み中悪いけど、到着したぜー」
既に彼らのケンカには慣れきっているハンゾーが呆れたように
声をかける。
かくして、レオリオとクラピカのゼビル島最初の第1歩は最悪
だった。


ゼビル島は緑が多く、人畜無害の果実や涌き水も豊富にある。
参加メンバーはワンゲル部・サバイバルゲーム愛好会・歴史探検
同好会等が主だったが、海水浴やキャンプを目当てに他の部からも
数名が来ており、中には交際相手同伴の者もいた。
おかげで、気心の知れた友人ばかりになったのは幸いと言うべきか。

初日はとりあえずテントの設営や食料・飲料水の確保に奔走して
終始した。



翌日からメンバーはそれぞれ本格的な活動を開始する。
女性を主とした海水浴チーム、食料確保を兼ねた磯釣りチーム
及び森林探検チーム等。
言うまでもなく、半分以上は遊びである。合宿二日目にして
クラピカは後悔し始めていた。
「泳がないの?クラピカ」
木陰から海を眺めるクラピカに、友人のポンズが声をかける。
「私は水着を用意して来ていないからな」
クラピカは彼女らと違い、本気で学術調査が目的だった。しかし
蓋を開けてみれば、期待していた遺跡も予想ほどのものはなく、
合宿とは名ばかりのバカンスツアーで、皆のノリについてゆけない。
浜辺に戻るポンズを見送っていると、ビーチバレーに興じている
レオリオの姿が目に入った。
やはりというか何というか、水着の女性たちにまぎれて楽しそうに
鼻の下を伸ばしている(ようにクラピカには見えた)。
─── ちなみに、浜辺で遊んでいる男はレオリオ以外にも大勢
いるのだが。
(やはり来るべきではなかったな)
明るい夏の陽射しの下、クラピカの心は苛立ちと悔恨で暗く
沈んでいった。


夕刻、帰還した釣りチーム及び森林探検チームの成果で大量の
食材が集まり、更に調理担当のメンチが持参した食料も足して、
原始的ではあるが、それなりに豪華な夕食と相成った。