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ようやく見つけ出した同胞は、防腐液に満たされた筒の中。
小さな二つの緋色の眼球。
クラピカは保存ケースを抱きしめた。
誰の眼なのかはわからない。
しかし間違いなく、同じ村で生きてきた、同じ血を持つ者。
こんな姿になる為に、生まれて来たわけではなかったのに。
人口の少ない一族の中、愛されて宿り、望まれて生まれ、
健やかに育ち、幸せに年を重ねてゆくはずだったのに。
誰も、この人をこんな姿にする権利など無かったはずだ。
悔しかっただろう。
恐ろしかっただろう。
哀しかっただろう。
生きていたかっただろう。
その思いは私が受け継ぐ。
だから貴方はもう、ただ静かに眠るだけで良いのだよ。
――― いずれ私も、共に眠るから。
死闘の末に斃した仇は、赤い血と感情とを持つ同じ『人間』。
その命を奪ったのは私。
クラピカは返り血に染まる手を見つめた。
辛いなどとは思わない。
これは確かに、正義の名の下に行った、正当かつ当然の報復。
こんな事をする為に、生まれて来たわけではなかったけれど。
孤独と憎悪の日々の中、耐えて生き、みずから決めて、
闇社会に入り、同胞の無念を晴らす為にここまで来たのだから。
誰も、私にそんな生き方を強いたりはしなかったけれど。
悔しかったのだ。
恐ろしかったのだ。
哀しかったのだ。
生き残ってしまったのだ。
その思いが私を突き動かす。
だからもう誰も、愛してくれなくて良いのだよ。
――― 既に救済を望む資格は無い。
胸に冷たい鎖を秘めたまま、クラピカは天を見上げる。
夜空に輝く月は美しく、失われた楽園の如く遠い。
――― どれだけの血が流れたら、私もそちらへ行けるのだろうか。
もう戻らない、幸福だった幼い日々。
二度と戻って来ない、愛する同胞たち。
私ももう、この道から戻れない。
――― 望まれて生まれ、健やかに育まれ、幸せに年を
重ねてゆくと信じていたのに。
血に穢れた翼では、彼の元まで飛べないだろうか。
あの優しい腕の中に、私の居場所はもう無いかも知れない。
――― 愛し愛される為だけに生きたかった。
誰にも助けは乞わない。
誰にも許しを乞わない。
その代わり。
せめて月光よ、この身に降り注げ。
――― そして、すべての罪と哀しみを浄化し給え。
私もかつては、神の子供だったのだから。
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