「緋色」



ハンター試験終了後、最終試験の途中に姿を消したキルアを
追って、ゴン達一行はパドキア共和国へ向かうことになった。
ゴンが負傷していた事もあり、入念に予定を立てて出立準備を
整える。
そんな中、レオリオはクラピカに一着の服を贈った。


「……何の真似だ?」
戸惑いの目を向けるクラピカに、レオリオは満面の笑顔を返す。
「何って、特に意味は無ぇけどよ。あえて言うなら合格祝いってトコ
かな?パドキアの気候はここより寒いって話だから、こういうのも
必要だろ?」
差し出したのはやや厚手のマオカラーの上衣で、色は深い赤。
いわゆる緋色だった。
その点が気にかかった以外、デザインはシンプルで実用的だし
価格も素材もそれなりで、特に問題は見当たらない。
拒む理由は無いのだが、受け取る理由も思いつかず、クラピカは
困ったように服を見つめた。
「気に入らねえか?お前の趣味には合わなかったかな」
「……いや、そんな事は無いが」
「んじゃ、もらってくれよ」
「……しかし」
「ほら」
「…………」
クラピカはレオリオに押し切られるが、内心ではイヤではなかった。
贈り物をされて不快に思う者など、普通いないだろう。
「…礼を言うべきなのだろうな」
「んなこたいいから、着てみろよ」
勧められるままクラピカは、着たきり雀だった青いマントをはずし、
渡された上着を羽織る。
「思った通りだ、よく似合うぜ」
実は、購入した店には、同じデザインで青や白や黒色も揃って
いたのだが、レオリオは迷わず緋色に決めた。
クラピカにとって特別な色だと知っていたけれど、それでも選んだの
には理由がある。
試験の最中、レオリオは一度だけクラピカの『緋の眼』を見た。
『緋色』という色彩を目にしたのは初めてではない。だけど、こんなに
美しい色だなんて知らなかった。
金銭的価値など関係なく。ただ綺麗で、心の底から感嘆した。
世界で最も美しい緋色を身の内に持ちながら、人前では決して
誇る事ができないクラピカ。
その事実を惜しいと思ったから、せめて近い色の服を贈った。
やはり緋色は、クラピカの白い肌や金の髪によく映える。
こんな色気も素っ気も無い服なんかより、もっと可愛い服を着て
欲しいと願わずにはいられない。

――― ダメだ、マジでやられたかも。

心の中でレオリオは両手を上げた。
少し前から自覚はあったが、どうやら本当に本気になってしまった
らしい。
かつてないほど手強い事は承知の上で、向き合う覚悟を決める。

「レオリオ?」
黙り込んだままの彼を不審に思い、クラピカが呼びかける。
思考に没頭していたレオリオは我に返り、改めて笑った。
「あんまりキレイだから、見惚れてた」
それは彼にとって常套の口説き文句だったが、半分は本気。
臆面の無い賞賛に、クラピカは目を丸くする。
続いて恥ずかしそうに、どこか怒ったような表情でプイとそっぽを
向いた。
わずかに染まった頬が可愛いらしい。
クラピカはそのまま、贈られた上着を着て立ち去ってしまう。
一瞬だけ、瞳にも緋色が差したように見えたのは気のせいだろうか。

緋の眼に惹かれたのは同じでも、人体収集家どもとは違う。
どんなに美しい色だろうと、ただの目玉になってしまっては意味が無い。
きっと、クラピカの瞳だからこんなに魅了されたのだ。

(次回のプレゼントは、緋色のドレスでも探すとするか)

それはレオリオのハートを射抜いた、特別な色だから。




             END