|
少年は廊下を歩いていた。
ふと、進行方向に覚えのある気配を感じて立ち止まる。
レオリオとクラピカ。
そこにいたのは、よく見知っている、少年の仲間。
彼等は窓辺に佇み、何やら語り合っている。
顔を合わせればケンカの多い二人だけれど、今は夜という時間に
配慮してか、静かに言葉を交わしていた。
声をかけようとして、思いとどまる。
二人を包む空気に、割り込めない何かを感じてしまったから。
それは既に見慣れたツーショット。
少年がいつも見上げているクラピカより、レオリオは更に背が高い。
彼の大きな背中と広い肩幅に隠れるような位置で、クラピカは
笑っていた。
警戒や緊張の無い自然な態度で、やわらかく穏やかに。
彼等は少年の存在に気づいておらず、互いだけを意識している。
ふいにレオリオの腕がクラピカの肩に伸びた。
一瞬、驚いた顔をしたクラピカは、だけどそのまま引き寄せられる。
レオリオの胸に顔を埋め、はにかむような そして安らいだ微笑を
浮かべた。
そんな表情を、少年は見た事がない。
胸の奥がチクリと痛んだ。
レオリオに髪を撫ぜられるクラピカは嬉しそうで、逆に泣きそうにも
見えるのに、とても綺麗だと思う。
少年の前では、いつも大人びて冷静に振舞うクラピカが、今は
まるで子供のようだった。
クラピカは、年下の少年には決して弱みを見せはしない。
だがレオリオには素の姿を晒している。
理由は彼が年上だから?
でも、きっとそれだけではない。
少年は自分の手を見つめた。
この小さな手では、クラピカを抱きしめられない。
クラピカの辛さも苦しみも、包み込んではやれない。
それができるのは、レオリオの大きな手だけなのだから。
少年は拳を握り締める。
自分が大人だったら。
せめてクラピカと同い年なら、ハンデは無かったのに。
大人のレオリオを羨ましく思う。
あと5年、いや3年経てば、自分だって、もう子供ではない。
年齢的にも体格的にも、不釣合いではなくなるだろう。
だがその時は、もっと大人のレオリオがいる。
年の差は、そのまま少年とクラピカとの距離。縮まる事は決して
無いのだ。
小さな手と小さな体の、小さな少年。
夢と希望だけでは手に入らないものもある。
――― 早く大人になりたい。
そう願いながら、少年は踵を返した。
|