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ネテロ会長を始め、ハンター協会のお歴々の尽力により
クラピカとビスケは、それぞれ元の体に戻る事ができた。
――― のは、クラピカの休暇最終日、搭乗予定の飛行船が
出航する一時間前のこと。
「今からならギリギリ間に合うな。ありがたい」
「なぁ、もう一日滞在延長しねえ?」
本来の姿に戻った途端に帰還準備を始める恋人に、レオリオは
残念そうに擦り寄って来る。
「無茶を言うな。明日から仕事なのだよ」
「じゃあ、せめてあと一時間」
「一時間後は飛行船の出発時刻だ」
「なら30分で済ませるからさあ」
「………何をだ」
あからさまにシッポを振るレオリオを、鋭い瞳が睨みつけた。
少しでも一緒にいたいという気持ちは嬉しいし、よくわかる。
引き止める彼の下心も、理解できなくもない。
だがクラピカは、ビスケの体だった時間もずっとレオリオと
共に過ごしていた。
他の同期のハンターたちから
「いつこんなデカい子供つくった?」
「いつからロリコン趣味になった?」
などとからかわれながらも、レオリオはずっとクラピカの傍を
離れなかったのだ。
元からフェミニストだけに、相手が幼い少女(姿だけでも)と
なると、今まで以上に言動が優しい。
彼は本当に父子のように甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、
正直、惚れ直したが、それは本人には内緒。
恋人らしいコトは何もできなかったが、心は充分に満たされ
ている。
――― しかし男はそうはゆかないらしい。
レオリオには悪い気もするが、そこまで露骨に望まれると、
却って拒否したくなってしまう。
思わぬハプニングの所為とはいえ、わずかな時間で急いで
イタしてUターン、というのは、いくら何でもデリカシーに欠ける
というものだ。
何か、ソレだけが目的のようではないか。
「しつこいのだよ!」
追いすがるレオリオをひきずったまま、クラピカは空港へと
向かった。
幸か不幸か、チケットの変更はきかず、最終の飛行船も順調に
搭乗手続きが開始されている。
「クラピカぁ〜〜」
「いい加減あきらめたら?みっともねぇ」
「また今度ゆっくり会おうよ」
見送りに来たゴンとキルアも、オトナ気なく泣きつくレオリオに
苦笑した。
搭乗ゲートの前で、未練がましく涙目で見つめる彼を無視して
クラピカはゴンとキルアに挨拶をする。
「いろいろと世話になったな」
「ううん、元に戻れてよかったね」
「面白いもん見せてくれてサンキューな」
子供たちにはとても優しいのに、恋人には冷たい。
レオリオとしては、何がクラピカの気に入らないのか今ひとつ
わからないのだが。
楽しみにしていた久々の再会が、こんな形で終わるのは
寂しすぎる。
どのみち、またしばらく会えなくなるのだ。
ならば肝も据わるというもの。
「クラピカ !!」
レオリオは意を決し、つかつかと歩み寄った。
不審そうに振り向くクラピカに向かって、まっすぐに。
それは次第に早足になり―――
「!!!」
「うわああ少年健全育成保護違反ー!」
キルアは慌ててゴンの両目を手で覆う。
勢いよく両腕でクラピカを拘束したレオリオは、あっという間に
その唇を塞いでしまった。
一瞬、呆然としたクラピカだが、すぐ我に返り、ふりほどこうと
暴れだす。
しかし、そんな抵抗を一切封じて、レオリオは口接けた。
思いのたけを込め、胸にたぎる情熱を凝縮したような、目一杯
本気かつ本格的なディープキスで。
呼吸する余裕も無いほどの激しさに、クラピカの意識が眩む。
肩や胸板を叩いていた手は、あっけなく脱力してしまった。
体温も、脈拍も、すごい勢いで上昇してゆく。
空港という場所柄、惜別のキスも再会の抱擁も珍しくないが、
この人目をはばからない派手で濃厚なラブシーンは、周囲の
利用客はおろか職員たちの視線をも集めた。
――― 画像でお見せできないのが残念です―――
たっぷりと10分近くかかって、ようやく唇を解放された時、
クラピカは既に半失神状態だった。
顔は真っ赤、おそらく眼も緋色だろう。とろんと蕩けたような
半眼の視線は焦点が虚ろで、呼吸も荒い。
うっすらと汗を浮かべ、さんざん翻弄された舌と唇は濡れて
なまめかしく糸を引いている。
弛緩した体は自力では立てず、レオリオに支えられた腕の中。
「………いくら何でも、まずいんじゃねえの?」
「……やっぱ、そう思うか?」
どうせ一度しかできないキスならばと容赦なく、知りうる限りの
テクニックを総動員したレオリオだが、少々やりすぎたかも
知れない。
もう搭乗時間なのに、こんな状態のクラピカを一人で飛行船に
乗せるのは心配である。
というか、レオリオもちょっと困った事態になっているし。
※追求してはいけません※
キルアとしてはどうでもいいが、18禁ぽい風情の二人に早く
子供の前から退場してもらいたかった。
「あ、そうか」
ふと気づいたように呟き、レオリオはクラピカを抱き上げる。
「確かこいつの指定席、コンパートメントだったよな」
「そりゃハンターだから、自動的にそうなるだろ」
「じゃ、オレも一緒に乗っちまえばいいわけだ」
そう言って、レオリオは嬉々としてハンター証をかざした。
正に公私混同、職権濫用、助平上等、である。
「そゆワケだから、ゴン、キルア、またな!」
「ヘェヘェ。ま、がんばれよオッサン」
「何をがんばるの?」
やっと目隠しをはずされたゴンは、不思議そうに問いかけるが
それに答える者はいない。
レオリオはハネムーンよろしくクラピカを腕に抱いたまま、
それはそれは幸せそうに搭乗ゲートをくぐって行った。
飛行船が飛び立ってから、目的地に到着するまで、所要時間は
約3時間。
その間と、その後のコトは、ご想像にお任せします。
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