「Jealousy on the shelf」


それはいつもと変わらぬ夜。
夕食をすませたレオリオとクラピカは、二人で仲良く皿を洗う。
その後は順番にお風呂タイム。
レオリオは毎回クラピカを誘うが、当然のように毎回断られている。

彼の入浴中、時間が空いたクラピカは、ちょうどいつも観ている
報道&情報番組が始まる時刻だった為、居間に座ってテレビの
スイッチを入れた。
画面が明るくなると、途端に ある人物の顔がアップになる。
それは、ここ数日 世間を騒がせている外国人。
本職はスポーツ選手だが、世界的レベルの実力にも増して
俳優ばりの美貌が、人気に拍車をかけていた。
彼の来訪以来、マスコミは連日特集を組んでおり、今日も
何処へ行った、何をした、と、大騒ぎらしい。
平和な証拠だなと内心で呟きながら、クラピカは画面を見つめる。

「何、くだらねーもん見てんだよ」
ふいに、背後から声がかけられた。
濡れ髪にタオルをかけたまま浴室から出て来たレオリオは、
なにやら不機嫌な顔をしている。
「いつも見ている番組ではないか」
「こんなのがトップニュースなら、チャンネル変えろよ」
あからさまに不愉快な声、そして吐き捨てるような口調で、
レオリオは画面の男を睨みつける。
「……何を怒っているのだ」
「別に怒ってなんかねえよ。このバカ騒ぎに呆れてんのさ。
何だよあれ。映画俳優じゃあるまいし、ヘラヘラしやがって」
「レオリオ、彼のこと嫌いだったのか?」
番組の内容ではなく、映っている人物が気に入らないらしいと
気付き、クラピカは不思議そうに問う。
以前、彼の出場する試合をテレビ観戦した時は、二人して
盛り上がったものだったが。
「お前こそ、こいつのファンなのか?」
「ファンというか、実力のある選手だと認めているが」
クラピカの言葉に、レオリオの表情は更に憮然となる。
「……スポーツ選手ならそれらしく、本業で目立ちゃいいんだ」
「本業でも充分目立っているではないか」
間髪入れずクラピカは突っ込む。事実、かの選手が一流チームへ
移籍すると決定した事は、レオリオも知っているはず。
「…………」
「レオリオ?」
バカがつくほど正直なレオリオが、無言の追求をするクラピカの
瞳に敵うはずはない。彼はしばし口ごもった後、降参したように
くるりと背を向けて呟いた。
「……オレより、ほんのちょっとだけイイ男だ」
一瞬、クラピカは目を丸くする。
「…本業だけじゃなく顔もいいなんてサギじゃねーか。天はニ物を
与えやがって…」
その言葉に、クラピカは吹き出してしまった。
世界的な有名選手と市井の医学生を比較する方が間違いだと
思うが、レオリオはかなり真剣らしく、更に文句をこぼす。
「笑うなよ。なんだよ、あいつなんか髪の色くらいしかオレと違わねー
じゃねーか。それをお前、熱心に見やがって」
「……れ、レオ、リオ…」
涙が出るほど笑ってしまったクラピカは、まともに声も出ない。
そんな彼女の様子に、レオリオはすっかり拗ねてしまった。
クラピカは呼吸を整え、それでもまだ止まらぬクスクス笑いを
堪えながら、フォローを入れる。
「レオリオ、心配するな。お前は彼よりずっといい男なのだよ」
「うそつけ。いいよもう。勝手にあいつ見てりゃいいだろ」
「私は偽証はしない。自信を持て」
いじけて壁に向かっていたレオリオは、眉をハの字にしたまま
卑屈そうに振り返る。
視線の先には、愛しいクラピカの笑顔。
「…………マジ?」
「本当だ。なぜなら私は彼を愛してなどいないが、お前のことは
世界で一番愛しているのだよ」
「!」
途端に、レオリオの顔がパッと明るくなった。
「クラピカ〜〜〜
現金なもので、レオリオは身を翻してクラピカに飛びつく。
この単純さには呆れもするが、可愛いところでもある。
または、惚れた弱みとも言うが。
「オレのこと、愛してる?」
「今更ではないか」
「あいつより?」
「だから比較するなというのに」
テレビ画面を指差して念を押すレオリオに、クラピカは苦笑する。
先刻までとは一転し、レオリオの顔はいちめんの幸せ。
あっという間に立ち直り、愛しげにクラピカを抱きしめる。
そもそも、かの選手に対してというより、クラピカが熱心に見て
いる(ようにレオリオには見えた)男が、自分よりイケメンなのが
悔しかっただけで。
彼女の口から最愛と指名されたなら、何も怖い物は無い。
自信回復。ラブラブパワーMAX。心は既にベッドの中。
「じゃあ、もうあいつのこと熱心に見るなよ」
「わかった。では消そう」
クラピカは駄々っ子をあやす母親の気分で、テレビのリモコンを
手に取る。
――― しかし。
「……あ、ちょい待て」
突然レオリオは制止し、クラピカの手を押さえた。
彼の視線はテレビ画面に釘付けされている。
「?」
不思議に思って、クラピカは肩越しにテレビを振り向いた。

(・・・!!)

画面は既に切り替わり、そこに映っているのは、先刻の選手に
同伴して来た美しい奥方。
元セクシーアイドルの彼女は、母となった現在でも少しも衰えぬ
ナイスバディを露出の激しいドレスに包み、コケティッシュに
微笑んでいる。
すっかり鼻の下を伸ばしたレオリオは、クラピカの額に怒りの
青筋が浮かんでいる事に気付かなかった。

その夜、レオリオは寝室別居の刑を言い渡されたそうな。

教訓・自分のヤキモチを棚の上に上げてはいけません。


             END