「天使の悪戯」


息苦しさを感じて、クラピカは瞼を開ける。
原因は、横から伸びた腕が胸元を圧迫しているからだった。
クラピカは恨めしそうに目線を隣の男に向ける。
両腕をクラピカに巻きつけるようにして寝ているレオリオは、
まるで、逃がさないとでも言いたげだ。
(やれやれ…)
クラピカは溜息をつく。
けれど嬉しい気持ちは否めず、極力静かな動作で体勢を
変えると、正面から彼の寝顔を見た。
目の前にあるのは、気取って口角を上げた笑みではなく、
何とも無邪気に幸せそうに眠りこけた、安穏な顔。
それを微笑ましく思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか?
忍び笑いを漏らしつつ、クラピカは感情を噛み締める。

朝起きて、最初に見たのが好きな相手の顔という、
そんな些細な事が、どうしてこんなに嬉しいのだろう。

本能的な欲求で、クラピカはレオリオに身を寄せる。
レオリオは口の中でムニャムニャと呟き、寝ぼけながらも
クラピカを抱きしめた。
その暖かさは、凍てつく朝の寒さを忘れさせる。

(…いや、甘やかしてはいけない。きちんと言うべき事は
言わなくては)
クラピカは思い直す。
なぜなら、ずっと彼の身勝手に振り回されていたから。

仕事があると言っておいたのに、勝手に会いに来て。
忙しいと言ったのに、勝手に待っていて。
ようやく時間をつくったら、一晩中離してくれなくて。
いくら眠らせろと言っても、聞かなくて。

結局いつも彼のペースに乗せられてしまう。
報復の一つくらいしてやらねば気がすまない。

クラピカは目を閉じ、再び眠りに入る。
レオリオの休暇は今日までだと言っていた。
早く起きて空港へ向かわねばならないはず。
だけど起こしてなどやらない。
飛行船に乗り遅れようが、予定をオーバーして困ろうが、
知ったことではない。

(おやすみ、レオリオ)
至福のぬくもりの中で、クラピカは微笑する。


寒い朝だから、ベッドを出たくなかっただけ。
睡魔の降臨は、罪の無い天使の悪戯。
白いシーツの翼に包まれて、天国の夢を見よう。



          END