「抱擁」
              〜レオリオside〜



朝、目覚めると
コーヒーの匂いが寝室まで漂ってきて
キッチンに人の気配を察知する。

―――
良かった。今日も、ちゃんと居る。

長い間一緒に暮らしているのに、いまなお微かな不安が消えない。
目を離したら、知らぬ間に一人でどこかへ立ち去ってしまいそうで。
この手にしっかり捕まえていないと、まるで泡沫の夢のような気がして。
そんな想いを振り払うように、ベッドから起き上がる。

光の中に金の影。
インスタントは添加物が多いからと、本人は飲まないコーヒーの豆を
毎朝、挽いてくれている。
すっかりなじんだ後ろ姿に忍びより、細い肩に腕を回した。

「おはようハニーv」
「誰がハニーだ。危ないではないか」

湯の入ったサイフォンを持ち直し、クラピカは文句を返す。
笑いながら、レオリオは更に腕に力を込めた。

もう離さない。
もうどこへもやらない。

心情を示すように、強く固く抱きしめる。
手に入れた唯一の幸せを逃さない為に。



               END
               日常の幸せを書いてみたくなりました。
                「幸せすぎてコワイ」というやつです。