「Neo Universe」 |
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その町には素晴らしい医者がいると評判だった。 彼は正式なライセンスを所有するハンターで、医療技術 のみならず人徳も篤く、下町の住人も入りやすいようにと 裏通りに こぢんまりとした医院を建て、金持ちにはきっちり 治療費を請求する一方、貧しい人たちは無償で診察し、 重症患者も軽傷者も区別なく熱心に治療する。 昔は法外な治療費を請求する悪徳医師しかいなかったので、 町の誰もが彼の存在に感謝していた。 「─── 先生、どうしていつまでも独り身でいるんだい?」 風邪薬を受け取りながら、常連患者の老婆が問いかける。 「なんだ?唐突な質問だな」 医師はずり落ちた眼鏡を指先で上げながら問い返す。 「唐突じゃないよ。皆が言ってるさね、先生みたいないい男が なんで結婚しないのかねぇって。先生に申し込まれりゃあ、 断る娘なんていやしないだろう?あたしもあと40歳若けりゃあ、 押しかけ女房になりたいところだよ」 冗談とも本気ともつかない言葉に医師は苦笑する。 「それとも、忘れられない相手でもいるのかい?」 「……まあ……そうかな」 老婆はおや、というふうに目を丸くした。 「オレは理想が高くてさ。世界で一番の美人に会って以来、 他は目に入らなくなっちまったんだよ」 「その人とは結婚しなかったのかい?」 「できなかった、というのが正しいな。あいつは大事な探し物が あるから、オレのそばに留まってはくれなかったんだ」 想いをはせるように遠くを見つめる医師に、老婆は慈愛と いたわりのまなざしで微笑みかける。 「先生を袖にするなんて、もったいないことするねぇ…でも 先生なら、きっといつか似合いの嫁さんが来るよ。あたしが 保証するさね、安心おし」 「……だといいけどな」 老婆の思いやりに感謝して、医師はまた笑った。 医院を出た老婆は、表通りを経由して自宅に向かう。 その途中、背後から声をかけられた。 「─── この辺りに、医師をしているハンターがいると聞いた のだが」 道を尋ねたのは、金色の髪をした若く美しい人物。 土地の者でないことは、その風貌や衣装から察せられる。 老婆は先刻、自分が出て来たばかりの医院への道順を 教えた。 「感謝する」 変わった言葉使いの迷い人を見送り、老婆はふと考える。 (もしかして、今の子が─── ……) 医院の玄関を開け、待合室を通過する。 受付も問診も必要無い。 顔を合わせることが、すべての始まりだから。 診察室の扉が開いた。 同時に、2人の視線がぶつかる。 「─── おかえり」 レオリオは、笑顔と共に自然に流れ出たその言葉で迎えた。 つられるように、クラピカも微笑む。 「ただいま」─── …… |
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END |