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ツェズゲラに能力を侮られたゴンとキルアは怒り心頭で念開発を
決意した。
しかし必殺技を習得しようというキルアに対し、ゴンは進むべき
方向を見出せず、ショートを繰り返している。
そんな友人を見かねて、キルアは助言してみた。
「ま、いきなり『必殺技!』ってのが難しいなら、順を追って考えて
みろよ」
「?たとえば?」
「たとえば“円”。“纏”と“錬”の高等応用技だ」
キルアの説明でゴンは、ノブナガが暗闇でも正確に自分達の
位置を掴んだ事実を思い出す。
「あのチョンマゲにできてオレたちにできないって事は無いハズ
だろ?習得できれば便利だろうし、そっから何か見つかるかも
知れないしさ」
「そうだね。…でも、どうやるのかな」
「通常は体の周囲にのみまとっているオーラを、自分の意志で
必要な範囲にまで拡張するんだろ?」
「うん。だからそれ、どうやってやるの?」
「そりゃあ、………」
「…………」
「………(汗)」
だいたいの理屈はわかっていても、実践の方法を彼らは知らない。
「とりあえず『応用』ってからには、基本の“纏”と“錬”をどーにか
すればいいと思うんだけど……」
『習うより慣れろ』という言葉が脳裏をよぎり、キルアは“纏”の
状態で目を閉じる。
それを見て、ゴンも同様に目を閉じた。
二人は“纏”をあらゆる状態に練りながら、思考錯誤を繰り返す。
どれだけの時間続けていたのか、やがてキルアはコツを掴む事に
成功した。
(…なんだ、けっこう簡単じゃん)
体の周囲から少しずつオーラが広がってゆく。キルアは目を開けて
それを確認し、満足げに微笑する。
ふとゴンに視線を移すと、彼はまだ開眼できていないようで、頭から
煙を出しつつ無言で奮闘していた。
なんとなく優越を感じながら、キルアは再び目を閉じ、確実に会得
するべく“円”を続ける。
それはまるで、透視能力を得たかのようだった。
目を閉じて立っているままなのに、部屋全体の配置がわかる。
隣に立つゴンの気配や距離感はもちろん、窓の向こうをよぎった
鳥の動きまで、手に取るように察知できた。
確かに、これは便利な能力だと言えよう。
一度目覚めたキルアの“円”は徐々に拡大してゆき、やがて部屋の
壁まで到達した。
しかしそれさえもスルリと通りぬけてしまう。
隣室の人物の気配が、その場にいるように接近して感じられた。
(……ん?)
キルアは不意に気付く。
隣の部屋にいるのはレオリオとクラピカだけ。ゼパイルは再び金策に
出かけているし、センリツも少し前、薬と食料の調達に行った。
だから二人しかいないのは知っている。
レオリオはクラピカを看ているから、そばにいるのも知っている。
しかし。
二人の気配は、なぜか寸分違わぬ同じ位置に存在していた。
それはすなわち、二人が密着している事実を指す。
並んでいるか、もしくは重なっているか。
(─── な、な、何してんだ!? あいつら〜〜〜!!!)
キルアは思わず目を見開き、部屋を隔てる壁へ視線を向ける。
同時に、隣で“円”の開発に集中しているゴンの姿が視界に入った。
彼の表情から、多少なりとも成功している事が察知できる。
「わ─────〜〜〜〜〜っ!!(汗)」
叫びながら、キルアは咄嗟にゴンへ体当たりした。
無防備だったゴンは突然のタックルを受け、そのまま床に倒れ込む。
「…った〜〜〜☆ いきなり何すんのさ、キルア?」
「わ、悪ィ……」
その不思議そうな顔つきに、一縷の望みを託し、キルアは恐る恐る
問いかけた。
「…ゴン、お前……“円”、できたのか…?」
「うん。さっきやっと少しだけ」
「ど、どこまで?」
「えーと、もうちょっとで半径1メートルくらいかな」
その範囲ならば隣室の状態まではわからないはず。キルアは大きく
息をつき、胸をなでおろした。
とはいえゴンの事である。このまま続けたら、あっという間に“円”を
習得しかねない。
「ゴン、ちょっと来い」
そう言ってキルアはゴンの腕を引っ張り、部屋を出る。
とりあえず危険ゾーンから離れる事が先決だから。
「どこ行くの?キルア」
「いや、その、あー……」
「せっかく“円”のコツが掴めたところだったのにさー」
「あ、あの部屋では、ちょっと……」
「……?なんで『あの部屋』じゃダメなの?」
口を滑らせた迂闊さにキルアは言葉を失う。廊下を進む足だけは
止めぬまま、それでも冷や汗がつつーっと流れた。
「あ、わかった。隣にクラピカ達がいるからだね?」
「!?」
明るく発言された瞬間、キルアの心臓が口から飛び出しかける。
よもやまさか、ゴンが理解していようとは思っていなかったから。
しかしゴンは更に続けた。
「そうだよね。病人が寝てる隣の部屋で念の訓練なんかしちゃダメ
だよね。他に部屋あるんだし、最初から移動しとくべきだったな」
「………………」
キルアの耳には、BGMに天使のラッパが聞こえた気がした。
幸いというか当然というか、ゴンはまったく気付いていない。いや、
疑ってすらいないだろう。
キルアは安堵のあまり脱力したが、不審がられぬよう精一杯ポーカー
フェイスで言った。
「ゴン、“円”の習得は後回しにしようぜ。小技よりもやっぱ一気に
“発”を目指した方がてっとり早いからな」
「え?でもせっかく……」
「時間も無い事だし。な?そうしようぜ」
「時間……そっか。うん、わかった」
ゴンの単純な性格を、つくづくありがたく思ってしまう。
このお子様の目にだけは触れさせたくない現実があるのだ。
─── それにしても。
(なんでオレがこんな事まで気を使わなきゃなんねーんだよ〜…☆)
考えれば考えるほど頭にくる。かといってわざわざ本人達に文句を
言うのもバカバカしい。
バカバカしいけれど。
(病人と医者(予定)のクセに、こんな時にこんな場所で、一体ナニ
考えてんだ!! ─── ったく〜!)
理不尽な怒りの行き場を見出せぬまま、キルアはゴンの腕を引き
ながら廊下を進んで行った。
─── がんばれキルア。負けるなキルア(笑)
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