「十六夜の月」




ふと窓の外を見ると、上空に浮かぶ丸い月が目に入った。


「今夜は満月かあ……」
勉強の手を休めながらレオリオはつぶやく。
南方に位置するこの国でも、季節はもう秋。空気が澄んで
いる為か、はっきりと月が見える。
久しぶりに目にする月は金色に輝き、とても美しい。
眺めている内に、レオリオは同じ色の髪をした誰かを連想
してしまった。
(あいつ、どうしてるかな……)
空港で別れた時には、まだ体調が完全ではなかったはず。
頼れる友人が付いていたとはいえ、改めて思うと気にかかる。
あれからだいぶ経つけれど、元気でいるのだろうか。
考え始めると止まらなくなり、衝動のままレオリオは携帯電話
に手を伸ばす。
既に時刻は深夜。多少の時差はあれど、電話をかけるには
非常識な時間だ。しかし、メールならかまわないだろう。
レオリオの指は軽快にプッシュボタンを押した。



オレだ。
今、時間があれば空を見てみろ。
月が綺麗だぞ。
身体の調子はどうだ?
無理だけはするなよ。

オレの代わりに月が見てるからな。






    




ふと気付くと、空には丸い月が昇っていた。

「今夜は満月だったな……」
仕事を終え、ようやく自室に戻ったクラピカはつぶやく。
最後に見た月が、あまり思い出したくない記憶と共にある
為か、このところ夜空を見る事など無かった。
昔は自然とふれあうことを心の支えにしていたような気が
するのに、殺伐とした日々を虚しく思う。
久しぶりに目にする月の輪郭は鮮やかな真円で、とても
美しい。
眺めている内に、クラピカはよく似た真円形のサングラスを
かけた誰かを連想してしまった。
(今、どうしているだろうか……)
空港では、あえて笑って別れたけれど、内心とても無理を
していた。だけどあのまま一緒にいたら、ますます別れ難く
なっていたはず。
優しい友人が心を慰めてくれはしたけど、ずっと心に残って
いた。今はもう体調も回復したが、思い出したら感情は止ま
らず、無意識に携帯電話に手をかける。
さすがに直接話すのは、照れもあって躊躇うけれど、メール
ならかまわないだろう。
クラピカの指は滑らかにプッシュボタンを押した。



私だ。
今、時間があれば空を見てみろ。
月が綺麗だぞ。
勉強ははかどっているか?
無理だけはするな。

私の代わりに月が見ているのだよ。





 
─── 互いの想いが月下で交差していた。




            END
        十六夜の美しい月を見て思いつきました(^^;)