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目の前がどんどん緋くなる。
止まらない。
止められない。
憎悪に我を失ってゆく。
─── この男を殺したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
「クラピカ!冷静になれ!」
無駄は承知で諌めてみるが、レオリオの声は届かない。
殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。
殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。
殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。
殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。
─── クルタ族を虐殺した仇、すべての元凶が目の前にいるのだ。
センリツのように心音など聞こえなくとも、クラピカの殺意は痛いほど
伝わって来た。
「お前に話す事など何も無い」
「…………!!」
「クラピカ!挑発だ、乗るな!!」
殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。
殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。
殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス
殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス
殺ス ──────!! ………………
今にも手を下してしまいそうな殺気と形相。
できる事なら本懐を遂げさせてやりたいが、現時点では状況が
許さない。
何とかして止めないと、このままではクラピカが壊れてしまう。
レオリオは路肩に車を寄せて一旦停車した。
同時に、座席のリクライニングを少し倒す。
「─── !?」
突如、前方から伸びてきた手に胸元を掴まれ、反射的に顔を
上げるクラピカの視界が遮られた。
レオリオが唇をふさいでいる。
怒りに沸騰した頭では一瞬状況を理解できなかった。
(……こんな時に、何を……!)
押しのけようとしても、右手は鎖に集中しているから使えない。
左手だけでは抗いきれない。
その上レオリオは、触れるだけではなく強引に舌を割り込ませて
いた。
「……!……、……!!」
激しく吸われる感覚に頭の芯が眩む。
呼吸が苦しい。
(……?……)
クラピカはふと気付いた。
何か、暖かい気配が全身を包んでいる。
(……レオリオの……『念』……?)
まだ会得していないと言っていたのに。
だが他に思い当たらない。無意識なのかも知れないけれど。
それはとてもあたたかく、やわらかく、癒すかのような優しいオーラ。
唇から、体内にまで流れ込んで来る。
まるで口移しのように。
いつしかクラピカは瞳を閉じていた。
───── …………
どれだけの間、そうしていたのだろう。
ようやく解放された唇に、優しく触れる感触。
瞼を上げると、間近にレオリオの心配そうな顔。
「………落ち着いたか?」
「…………」
クラピカはどこか呆然とレオリオを見つめる。
視界を染めていた緋色が今は無い。
頭に響くほどの激怒の鼓動もおさまっている。
思考を侵食していた憎悪が─── 消えたわけでは決してないが───
潮が引くように鎮静していた。
「クラピカ…?」
「……大丈夫…だ」
大きく息をつきながらクラピカは返答する。
つい先刻、怒りにまかせた暴走で失敗したばかりだというのに、また
同じ轍を踏むところだった。
─── 今は、私一人の感情で動いて良い時では無いのだ。
囚われているゴンとキルアの為に。
巻き込んでしまったセンリツの為に。
そして、何よりも私を案じてくれているレオリオの為に…………
「私は冷静だ。……感謝する」
「よし」
レオリオは安堵したように微笑し、前に向き直ると再び車を走らせる。
クラピカは改めて計画を進行すべく行動を開始した。
人質から取り上げた携帯をプッシュする。
敵の誰かが受信した。
「これから三つ、指示する─── 」
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