「お宝×思い出×ある日のレオリオ」       
              〜キャラブックネタ〜        
        


レオリオの故郷は、気候が温暖で美しい海が自慢の中堅国家。
生まれは下町の片隅だが、気が良くて面倒見の良いレオリオは
男女を問わず多くの隣人に慕われていた。
パドキアから戻って来て、2ヶ月と少しが過ぎている。
レオリオは国立医大に願書を提出し、日々受験勉強にいそしんで
いる
─── のだが。
彼の現在の住居は、国内屈指の五つ星ホテルの最上階、ロイヤル
スイートルーム。本来の下宿とは比較にならない豪華な広い部屋。
なぜそんな所に滞在しているのかというと
───


『オレはハンターになる!』
レオリオがそう宣言して故郷を出たのは数ヶ月前。その時、友人・
知人の誰もが彼を止めた。
ハンター試験の過酷さは有名だったし、過去にも同様の若者たちが
大勢いたが、誰1人として帰って来なかったからだ。
絶対に受かるはずはない。それどころか、死んでしまう。無謀な
夢で命を捨てさせるには惜しいと、皆、そう思っていたのだ。
しかし大方の予想を覆し、レオリオは見事に合格して帰国した。
彼は驚嘆と尊敬の歓迎を受け、一躍 下町の英雄となったが、
同時に困った事態も発生したのである。
一つは、言うまでもなく ハンター証を狙う小悪党たち。
凱旋の噂が流れて以来、レオリオは幾度となく襲われ、もちろん
その度に撃退したが、下宿の管理人や近隣住民たちに迷惑を
かける事がしのびなく、街で一番高級なホテルに移った。
ここならとりあえずセキュリティは万全だし、落ち着いて勉強できる。
もう一つの問題は、逆ナンパが増えたこと。
その中には、以前の自分には見向きもしなかった高級娼婦や
上流階級のお嬢サンも少なくない。
要するに「レオリオ」ではなく「ハンター」が目当てなのだ。迂闊に
鼻の下を伸ばせば、それこそ寝首をかかれかねない。
おかげで外出時には、あえてくだけたラフな服装や帽子で変装
する羽目になってしまったのである。
 

今日もレオリオは派手なアロハシャツで観光客を装い、ホテルを
抜け出して図書館で勉強に励んでいた。
しかし、前日の夜更かしが尾を引いていた為か、今ひとつ勉強が
はかどらない。
午後になり、レオリオは予定を切り上げて早目に図書館を出た。
ここしばらくホテルの部屋と図書館を往復するだけの日が続いて
おり、単調な生活に覇気を失いかけている。
豪華だけど冷たい部屋へまっすぐ帰る気がしなくて、レオリオは
近くの公園へ立ち寄った。
   
群れ集う鳩たちがエサをねだって寄って来る。
連日 高級家具や本の山に囲まれている為、自然や動物たちの
醸し出すのどかさに癒される
気がして、
レオリオは売店で買ったエサを捲き与えてやった。
そしてしばらくの間 鳩を眺めていたが、シャキッとしないのは
自分らしくないと気づいたのか、レオリオは勢いよく立ち上がると
歩き始めた。
 

向かったのは、昔ながらの店舗が並ぶ商店街。気分転換の
つもりで来てみたが、見慣れた街並に心が和む。
─── ん?」
ふと、レオリオは一軒の店の前で立ち止まる。
骨董屋の看板が掲げられた店は古く、陳列してある商品も
『骨董品』というよりは『古道具』と呼んだ方が近そうな物ばかり
だった。
その中の一つにレオリオの視線が注がれる。
「何だ、こりゃあ……」
思わず手に取ったのは、紙製の小さな置物。…というか、人形
というか。
それが何なのか、レオリオは名前を知っている。ハンター試験
第三次試験の軍艦島で、お宝を探している最中に見かけた物と、
色は違うが同じ形をしていた。

 
─── 『達磨(ダルマ)というのだよ。東の方の国で、心願成就の
祈願をする際に使用される 人形だ』
───

あの時、そばにいて説明してくれた声が脳裏に蘇る。
「お客さん、目が高いねェ。それは不世出の芸術家が作った、
知られざる名品だよ」
しげしげとダルマを見つめるレオリオに目をつけた店主が話し
かけて来る。
いかにも嘘っぽい来歴をまことしやかに述べながら。
「……オヤジ。こいつはダルマだろう?」
「そうですよ。よく御存知で」
「なんで青い色をしてるんだ?普通は赤なんじゃねーのか?」
それがレオリオの目についた最大の理由。手にしたダルマは
青い色をしており、面付にはヒゲが無く、どこか幼げな面影を
たたえていた。
「だから知られざる逸品なんですよ」
「それに、ダルマの目ン玉は祈願の際に描き込むって聞いたぜ。
これ、もう両目とも描いてあるじゃねーかよ。しかも赤色で」
その通り、ダルマの目は既に両方、それも赤い染料で描き込まれ
ている。
これを売り物にするのは立派な詐欺と言えよう。
「それはその…、当店でも珍品ですんでねぇ…」
店主はレオリオの的確なツッコミにしどろもどろになっている。
実際、ガラクタ同然の品である事は明白だった。
だが、それでもレオリオはダルマを手にしたまま放せずにいる。
 
─── 青い服、赤い目、心願成就の祈願。この符号が誰かを
思い出させていたのだ。
ガラクタだとわかっている。無駄使いだ。何の意味も無い。
店主のフカシに乗るなんて、あまりにもバカバカしい。
………だけど。
「オヤジ、これいくらだ?」



思わぬ衝動買いをしたレオリオは、ホテルに帰る道すがら 
近くの浜辺で一息ついた。
レオリオの追求に気迫負けしていた店主は、青いダルマを彼の
言い値で売った。たいした金額ではなかったが、つくづくバカな
事をした自覚はある。
それでもレオリオは上機嫌だった。
砂浜に腰掛け、海に落ちる夕陽を眺める。
(軍艦島で見た夕陽の方がキレーだな……)
沈む夕陽は炎の色。燃えるような深い緋。だけど、太陽よりも
炎よりも、ずっと美しい色を知った。
(あれは……トリックタワーで…だったか……)
─── 世界七大美色の一つ、世にも美しい緋色の瞳。そして、
その持ち主。

「今頃……どうしてるかなー……」
隣に座らせた青いダルマに視線を移し、レオリオは一人つぶやく。
まるでそこに、相手が存在しているかのように。
「なあ……今、どこにいるんだ……?」
「ムチャな真似、してねーだろーな…?」
「せめて元気とか何とか、連絡して来いよー…」
「オレ、真面目に勉強してんだぜー…」
「おーい…どこで何してるんだよー…」
「オレの事、忘れちゃいねーだろーなー?」
「ふらふらして、妙なヤツにひっかかんなよー?」
「なんとか言えよー…」
返答が無い事は百も承知で、レオリオは繰り返しダルマに声を
かける。
傍から見れば不審な限りだが、幸いにも付近に人影は無い。
もっとも、今のレオリオは 誰かに目撃されようと気にも留め
なかっただろうけど。

「………は〜☆」
ひとしきり話しかけた後、さすがに虚しくなったのか レオリオは
大きな溜息をついた。
太陽は半分ほどが海の中に消えている。
そろそろ夕闇が迫っていた。
しばし海の彼方を見つめていたレオリオだが、ふいに立ち上がり、
思いっ切り息を吸う。
そして、腹の底から大声を上げて叫んだ。

「クラピカ─────────!!!!!!」

それは、ここしばらく ろくに口にもしなかった名前。
数ヶ月前には、毎日のように呼び続けていたのに。
「オレは諦めねぇからな
──── っ!!絶対お前に追いついて
やる
──── !!!」
知能、戦闘力、その他どの能力をとっても、はるか上にいる相手。
今の自分では、並び立つ事も恥ずかしくてできないけれど。
「絶っっ対、お前を捕まえるぞ
───── っ!!覚悟してろ───── !!!」
いつもそばにいたのに、捕えることはできなかった。腕の中から
スルリと去ってゆき、止める事さえできず見送った相手。
だけどいつか、必ずこの腕に取り戻す。

 
─── 掴まえたら、今度は二度と逃がさない。ずっと一生、
腕の中に捕えておく……

(オレの方が賞金首ハンターみたいだな……)
自分の思考に苦笑しながら、レオリオはダルマを拾い上げる。
よく見ると、ダルマの赤い目は 描き込まれてから年月が経っている
せいか、かなり褪せて赤茶に変色している。このままでは、いずれ
茶色になってしまいそうだ。
茶から赤ではなく、赤から茶に変わってゆく目の色。
それはあまりに暗示的ではないか。
レオリオは嬉しそうに笑い、ダルマに付着した砂を払い落とすと 
大事そうにかかえて帰路につく。
「しばらくの間、あいつの代わりにお前がそばにいろよな」
青いダルマは無言だったが、夕陽の残照を受けた顔が少し朱に
染まっていた。


END
しまった……(汗)
この話アニメ版なのに、ピカの目が茶色って……(滝汗)
………ははは(笑ってごまかす;)