家電バーゲン
放射能測定器
避難リュック
本のバーゲン

  「インターミッション」


 
 


ゼンジに殴られて負傷したノストラードをロビーに残し、クラピカは車を
回させに、ホテルの表玄関へと向かった。
事態はクラピカの望み通りに進行している。すべては予定の内だと改めて
自分に言い聞かせ、胸の中に立ち込める靄を紛らわせながら自動ドアを
出る。


「…!」
瞬間、クラピカの警戒アンテナが反応した。
目の前に一人の男が立っている。
(シルバ・ゾルディック……)
彼とは先刻、殺し屋チームの集結した部屋で会った。年齢から察して、
キルアたち兄弟の父親。パドキアでは顔を合わせる事も無かったが、
彼の御膝元まで近づいた。
腕を組んで壁にもたれているシルバは、 それだけで威圧するような
存在感がある。
さすがに伝説の殺し屋と呼ばれる人物だと納得させられた。
『絶』は使っておらず、『隠』も感じられない。そもそも敵対関係ではないが、
自分との技量の違いは明白で、クラピカは細心の注意を払いながらも 
意識的に無関心を装い、シルバの前を通過する。
―――― その時。
「妙な所で会ったな」
突然、シルバが口を開いた。周囲には他に人影も無く、明らかにクラピカに
対して発せられたと思われる。
クラピカは一瞬、足を止めた。
「たった半年で、よくここまで成長したものだ。見違えたぞ」
シルバの口調は比較的穏やかで、揶揄や敵意は無い。しかしクラピカは、
あえて知らぬふりをした。
「―――― 人違いだろう。私には、貴公と会った記憶は無い」
「オレも『会った』事は無い。『知っている』だけだ」
確かに彼なら、敷地内にまで入り息子を連れ去った連中の調査など、
造作も無いだろう。クラピカは無言のまま、警戒を解かずにシルバを見る。
そんなクラピカにシルバは軽く笑った。
「……何がおかしい」
まるで、すべてお見透しだと言わぬばかりの態度に反発し、クラピカは
鋭い瞳を向ける。気圧されている事に気づかれたくなかった。
「いや、別に」
念能力者としてのキャリアの差は仕方ないが、侮られているようで
不愉快になる。
クラピカは無視して再び歩を踏み出した。
「一つ忠告してやる」
クラピカの背にシルバの声が降りかかる。
「今回は無理をするな」
続いて聞こえた言葉に、クラピカはシルバを振り返った。
彼は既に逆方向へと歩き始めている。
「―――― 私は無理などしていない」
思わず反論を返してしまった。それは決して強がりではなく、クラピカと
しては本心だったのだが。
シルバはわずかに振り向き、また微笑する。
「オレから見れば充分背伸びさ。―――― せいぜい気をつけるんだな、
お嬢ちゃん」
そう言い残して、シルバは駐車場へ歩いて行った。




シルバの後ろ姿を見送り、クラピカは彼の言葉を反芻する。
そして、ふとひっかかった。
『今回は無理をするな』―――― 『今回は』?
それは『今回』就いている任務(ボディガード業)の事か?
それとも『今回』起こると思われる戦いに対してか?
思わずシルバの去った方向を見るが、そこにはもう、彼の影も姿も
無かった。
―――― 無理をしているつもりは無い。今の自分が在る場所は、すべて
納得ずくで自ら選んだ道なのだから。
しかし精神的な意味を指したのであれば一概に否定できない。その
意味でシルバの慧眼には畏怖を感じた。だがそれは、クラピカにとっては
未熟の証でもある。
すべての個人的感情を抑制しているつもりなのに『無理をしている』
ように見えたのなら、まだまだ忍耐が足りないという事だろう。
だからシルバほどの者には見破られてしまったのかも知れない。
―――― もう、他の誰にも気づかれてはならない。

クラピカは決意も新たに、暗い路を歩いて行った。




「お前が他人に忠告とは珍しいの。どういう心境の変化じゃ?」
セメタリービルに向かう車中でゼノはシルバに問い掛ける。彼はその場に
居合わせていなかったが、シルバとクラピカとのやりとりを見ていたかの
ように知っていた。
「あいつは、キルが興味を持った連中の一人だからな」
特に隠す気も、その必要も無かったので、シルバは返答する。
「仲間が自分の知らない所で殺られたらキルはどうするか見てみたい気も
したが、まだ死なせるには惜しいと思った。それだけだ」
「ふむ」
シルバの説明を聞きながら、ゼノは含み笑いをこぼす。
「つまりは親心か。まだまだ甘いのう、シルバ」
シルバは何も言わずに笑った。




─── 運命の分岐は無数にあり、複雑に交錯している。そして、些細な
きっかけで人生は変わるのだ。


戦いの幕は上がろうとしている。暗闇に浮かぶ灰色のビルが墓標の
ように佇んでいた。

                
 END