「薄っぺらな嘘」 | |
今までに経験した事のない激闘だった。 その場にいた誰もが命の限り戦った。 そうして──────── 生き残ったのは『敵』。 操っていた糸は次々と切れて消え、自身が糸の切れた人形の ように、少女は冷たい地面に倒れ伏す。 この日が来る事は承知していた。 そして覚悟していた。 自分たちは最初から、この世に存在しない星屑の子供だったの だから。 闇に沈む意識の中、冷たく柔らかな念に包まれる気配がした。 少女が意識を取り戻したのは、死闘の日から二日後。 気を失う寸前まで周囲にいたはずの仲間も敵も誰一人おらず、 代わりに別の人物がそばにいた。 それは彼女が一番嫌っていて、一番気になっていた男。 彼は片腕を失くしていた。どんなに不可能な奇術も鮮やかに披露 してみせた奇跡の手を。 ─────少女の命と引き換えに。 少女は礼を言わなかった。助けてくれと頼んだ覚えは無かったから。 相変わらず冷たい瞳で、命の恩人に微笑ひとつ返さなかった。 青年は自分の美学に反するからと、移植も義手も受けず、失った腕を そのままにしている。 『恩きせがましい』と少女は青年を睨みつけた。それを聞いて青年は、 『恩なら買ってくれる相手に売るよ』と笑い飛ばし、自らの念で腕を 形成して見せる。そして実生活に何ひとつ不自由は無いと言って また笑った。 少女には青年が理解できない。初めて会った時からそうだった。 常に満面の笑みで擦り寄って来て、どんなに冷たくあしらっても懲りなくて、 本気か嘘かわからない好意を露骨に向けてくる。 ───── 油断したら、きっと寝首を掻き切られると直感していた。 命を救われても、青年に対する少女の見解は変わらない。 一日中同じ部屋にいても、一言も口をきかないことさえある。 しかし戦いの傷が癒えた後も彼のもとから去ろうとはしなかった。 逃げ出すような真似は不本意だったから。 少女が居ついて以来、青年は前にもまして機嫌が良い。まるで、 望みの玩具を手に入れた子供のように、日々楽しそうにしている。 「キミをそばに置ける日が来るなんて思わなかったナ」 「あたしはアンタの所有物じゃない。どこに居ようとあたしの勝手だ」 「キミのそういうところ、魅力的だよ」 「アンタなんか大嫌いだ」 「うん、知ってる」 嬉しそうに青年は、少女にキスをした。 「こういう時には、目を閉じて欲しいんだけど」 「……あたしの勝手だ」 少女はツンとそっぽを向いて言い放つ。 青年は楽しげに笑いながら熱い視線を送っている。 壁に触れた青年の腕が、クシャリと音をたてて歪んだ。 それは限りなく本物に近い偽物。真実と紙一重の虚飾。 ───── 『薄っぺらな嘘』。 |
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END ※作者注※ 私はヒソマチ派なんですけどね。 この二人にレオクラみたいなラブラブな 関係にはなってほしくないのです。 ヒネクレ者同士のヒソマチが好きなの。 |